スイートアイテム
カカシは甘いものが苦手だ。
対してイルカは甘いものが好きだ。
そりゃあ一楽のラーメンには劣るけれど、アカデミーや受付業務での残業に饅頭や一口チョコは欠かさないし、女子生徒たちが新製品のクッキーが美味しいといえば自分も買ってみる。
男が甘いもの好きだなんてと、そういう見栄とは無縁のイルカは甘いもの好きを隠していない。
そんなイルカのために、カカシはくのいちに人気の有名菓子店でケーキを買ってきた。濃厚なチョコとブランデーの香るガナッシュケーキ。
イルカが喜ぶだろうと、そう思ったのだ。
けれど。
お土産ですと渡された箱の中を覗き込んでも、イルカはあまり嬉しそうではなかった。
喜んではくれている。だけど、いつも小さなチョコを頬張っている時のような、いかにも幸せといった表情ではない。
カカシは戸惑った。
酒が入っているから駄目なのだろうか。フルーツの炒め物が許せない人間がいるように、イルカはお菓子に酒を使うのが許せないのかもしれない。だけど、酒粕饅頭は食べていたような。
「こういうケーキは嫌いでしたか?」
「え? 好きですよ」
イルカはきょとんとして言った。嘘は見えない。
自分は食べないからと、三つ買ってきたケーキのうち二つはイルカの腹に収まった。明日に持ち越しても大丈夫そうなケーキは冷蔵庫の中。
我慢して食べている風ではなかった。
濃厚なチョコを味わうようにして食べる様子は充分美味しそうだった。
では、どうして?
少しして、カカシは知る。
イルカが幸せそうに食べるお菓子は、全て子供の頃からのおやつだと。
両親がいて、家があって。
幸せだった頃を懐かしく思いだす小さなアイテム。
少し苦い、甘いアイテム。
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